背景
非蛍光物質であるCalcein-AMは、細胞内のエステラーゼによって蛍光物質であるCalceinとアセトキシメチル基に分離され、蛍光物質であるCalceinが細胞内に蓄積する。Calcein-AMおよびCalcein がABCB1によって認識され、細胞外に排出される[1]ことが報告された結果、細胞内に蓄積するCalceinに由来する蛍光を観察・定量することが、ABCB1の機能を評価する方法として採用された。
1. Essodaigui M, Broxterman HJ & Garnier-Suillerot A (1998) Kinetic analysis of calcein and calcein-acetoxymethylester efflux mediated by the multidrug resistance protein and P-glycoprotein. Biochemistry 37, 2243–50.
材料
試薬
- 10 × D-PBS(-) (Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)
- Antibiotic-Antimycotic Mixed Stock Solution(100 ×) (NACALAI TESQUE, INC.)
- DMEM (High Glucose) (NACALAI TESQUE, INC.)
- FETAL BOVINE SERUM (Biochrom AG; EQUITECH-BIO, INC.)
- L-Glutamine (NACALAI TESQUE, INC.)
- Calcein-AM (nacalai tesque)
- Nuc Blue live cell stain (Molecular Probes)
- Trypan Blue MW = 960.81 (NACALAI TESQUE, INC.)
細胞
invitorogen社がHEK293細胞から樹立した細胞であり、12番染色体短腕の一ヶ所にFlpリコンビナーゼ標的サイトが導入されている。Flp-In-293細胞の基本的な特性は、HEK293細胞と同様である。
PBS(−)の調製
10 × D-PBS(−) (50 ml)を超純水 (450 ml)で10倍希釈し、調製した。調製後は、直ちにオートクレーブ滅菌 (121˚C, 15分, 2気圧)を行い、使用時まで4˚Cにて保存した。
200 mM L-Glutamineの調製
電子天秤に載せた200 mlビーカーにL-Glutamine (MW = 146.14) (2.92 g)を量り取り、超純水 (100 ml)を加えた。そして、スターラーバーを用いて水溶液を撹拌し、L-Glutamineを溶解した。L-Glutamineの溶解後は、0.22 μm フィルター (MILLEX® GP Syringe Driven Filter Unit) (Sigma-Aldrich Co. LLC.)を付けた50 ml テルモシリンジ® (TERUMO CORPORATION)にL-Glutamine 水溶液を注入し、フィルター滅菌を行った。ろ液については、10 mlずつ15 ml tubeに分注した。その後、使用時まで−30˚Cにて保存した。なお、L-Glutamineを溶解させた後の一連の操作は、クリーンベンチ内で行った。
血清の非働化
−30˚Cにて凍結保存していたFETAL BOVINE SERUMを冷蔵庫に移し、一晩かけて融解した。翌日、融解させたFETAL BOVINE SERUMを恒温槽に静置し、FETAL BOVINE SERUMの液面以上になるように恒温槽に水を足した後、恒温槽の水温が56˚Cになるまで温めた。水温が56˚Cに到達した後は、FETAL BOVINE SERUM を56˚Cで30分間温めた。この後、FETAL BOVINE SERUMを恒温槽からクリーンベンチ内に移し、十分に撹拌した後、50 mlずつ50 ml tubeに分注した。その後、使用時まで−30˚Cにて保存した。
細胞培養用DMEMの調製
非働化したFETAL BOVINE SERUM (50 ml)、200 mM L-Glutamine (10 ml)、Antibiotic-Antimycotic Mixed Stock Solution (100 ×) (5 ml)をDMEM (High Glucose) (500 ml)に添加して細胞培養用DMEM [10%(v/v) 非働化FBS, 4 mM L-glutamine, 100 U/mL penicillin, 100 μg/mL streptomycin, 250 ng/mL amphotericin B]を調製した。なお、当サイト内では、細胞培養用DMEMを「DMEM」と記述する。
1M EDTA水溶液の調製
EDTA (nakarai tesqu) (29.224 g)を超純水 (100 ml)に溶解させたものを1 M EDTA水溶液とした。
0.25%(w/v)Trypsin-1 mM EDTA溶液の調製
Trypsin (from Hog Pancreas) (nacalai tesque) (2.5 g)を少量の超純水でペースト状にし、約90 mlの超純水を加えて氷上で撹拌した。その後、1 M EDTA水溶液 (100 μl)を加え、さらに超純水を加えて100 mlにメスアップした。そして、クリーンベンチ内でこの溶液をフィルター滅菌[(Sartolab RF 180C3, 0.22 μm PES) (Sartorius Japan K.K.)]し、得られたろ液を0.25%Trypsin-1 mM EDTA溶液とした。
1 mM Calcein-AM
Calcein-AM (nacalai tesque)(1 mg)をDMSO (1.005 ml)で溶解し、1 mM Calcein-AMを調製した。
0.25% Trypan Blue溶液
Trypan Blue (NACALAI TESQUE) (0.5 g)を超純水 (100 ml)で溶解し、0.22 μm フィルター (MILLEX® GP Syringe Driven Filter Unit)でろ過して0.25%Trypan Blue溶液を調製した。
実験方法
細胞の培養および継代
Flp-In-293/ABCB1細胞およびFlp-In-293/Mock細胞は、37℃, 5%CO2の条件下、DMEM中で培養した。継代は、細胞を播種した日を0日目とし、3日目もしくは4日目に行った。具体的には、アスピレーターを用いて培養ディッシュ中のDMEMを吸引除去し、PBS(-)を用いて細胞表面を洗浄した。アスピレーターを用いて洗浄に使用したPBS(-)を吸引除去した後、0.25%(w/v)Trypsin-1 mM EDTA溶液を培養ディッシュに加え、CO2インキュベーター内に約2分間静置した。その後、顕微鏡下で細胞の様子を観察した。細胞の形状が球状に変化し、細胞が培養ディッシュから遊離し始めていることを確認した後、新鮮なDMEMを培養ディッシュに加え、細胞と共にDMEMを遠沈管に回収した。そして、遠心分離 (300 rpm、5分、20℃)を行った。遠心後は、アスピレーターを用いて上清を吸引除去し、遠沈管をタッピングして沈殿した細胞をほぐした後、遠沈管に新鮮なDMEMを加えて細胞を懸濁させた。そして、この細胞懸濁液の一部をHygromycin B溶液 (f.c. = 50 μg/ml)を添加しておいた新鮮なDMEMと混合して新しい培養ディッシュに移し、CO2インキュベーター (37℃, 5%CO2)に静置した。
Calcein assay
Flp-In-293/Mock細胞およびFlp-In-293/ABCB1細胞をそれぞれ35 mm glass bottom dish (IWAKI)に播種 (3 × 105 cells /dish/2 ml)し、24時間培養 (37℃, 5% CO2)した。そして、これらのディッシュに1 mM Calcein-AM (2 µl)を添加し、20分間培養 (37℃, 5% CO2)した。その後、NucBlue® Live Cell Stain ReadyProbesTM reagentを4滴滴下し、再び37℃, 5%CO2の条件で20分間静置した。Calceinに由来する蛍光は、Biozero 8100 (KEYENCE CORPORATION)で観察し、撮影した。観察と撮影は、1 dishにつき4ヶ所にたいして行い、1/10 secの露光時間の下、GFP-Bフィルター (KEYENCE CORPORATION)を用いてCalceinに由来する蛍光を捕捉した。一方、10 secの露光時間の下、DAPI-Bフィルター (KEYENCE CORPORATION)を用いてDAPIに由来する蛍光を捕捉した。なお、対物レンズには、CFI PlanApo λ20× (KEYENCE CORPORATION)を使用した。
解析方法
バックグラウンドの蛍光強度の算出
ソフトウェアImage Jを利用し、細胞が存在しない領域で観察される蛍光をバックグラウンドとして、蛍光強度を算出した。実際には、各画像において細胞が存在しない50ピクセル四方の領域を選択し、その範囲のグレイ値を表示した。具体的には、Image JをPC上で起動し、撮影した画像データを表示した。メニューにある[Image]→[Color]→[Split Channels]の順にクリックし、RGB (red, green, blue)画像を各色独立した画像3枚に分割して、それぞれを白黒画像に変換した。その後、この3枚の画像の中から”green”を選択し、メニューにある[Analyze]→[Histogram]の順にクリックして、細胞が存在しない50ピクセル四方の領域におけるピクセルあたりの蛍光強度を0 ~ 255の256段階のグレイ値で示した。そして、最も高いグレイ値を抽出した。この作業を各画像につき4回行い、抽出した全グレイ値の平均値をバックグラウンドの蛍光強度とした。
※ImageJのインストールは、こちら。
細胞に蓄積したCalceinに由来する蛍光強度の合計値の算出
ソフトウェアImage Jを利用し、撮影した画像全体の蛍光強度を定量した。具体的には、Image JをPC上で起動し、撮影した画像データを表示した。メニューにある[Image]→[Color]→[Split Channels]の順にクリックし、RGB (red, green, blue)画像を各色独立した画像3枚に分割して、それぞれを白黒画像に変換した。その後、この3枚の画像の中から”green”を選択し、メニューにある[Analyze]→[Histogram]の順にクリックして、それぞれの画像中のピクセルあたりの蛍光強度を0 ~ 255の256段階のグレイ値で示した。そして、[List]をクリックして、得られたデータを保存した。保存したデータについては、以下の計算を実施し、蛍光強度の合計値を算出した。
(グレイ値n×グレイ値nをとるピクセル数) + (グレイ値(n+1)×グレイ値(n+1)をとるピクセル数) + (グレイ値(n+2)×グレイ値(n+2)をとるピクセル数) + ・・・ + (グレイ値255×グレイ値255をとるピクセル数) = 合計値
※n = バックグラウンドの蛍光強度
細胞カウントおよび細胞1個あたりの輝度の算出
ソフトウェアImage Jを利用し、細胞数のカウントを行った。実際には、Image JをPC上で起動し、DNAに結合したNucBlue® Live Cell Stain ReadyProbesTM reagentに由来する蛍光を捉えた画像データを表示した。メニューにある[Plugins]→[Analyze]→[Cell Counter]の順にクリックし、Image J内アプリケーションであるCell Counterを起動した。Cell Counterが起動されたら、[Counters]から[Marker]を選択してマーカーを設定し、画像上の細胞をクリックすることによってカウントを行った。そして、細胞に蓄積したCalceinに由来する蛍光強度の合計値をカウントした細胞数で除し、細胞1個あたりの蛍光強度を算出した。なお、各dishに存在する細胞1個に蓄積したCalceinに由来する蛍光強度は、撮影した4枚の画像データから算出された平均値として算出した。